先に結論を言います。漫画やドラマで描かれるような危険な場面に遭うことは、実際にはめったにありません。ただし、密室で二人きりという仕事の構造上、リスクがゼロになることもありません。

だからこそ「もしものときの連絡手段を教えてくれるお店を選ぶこと」と「嫌な思いをさせる客——いわゆる痛客——への対処を知っておくこと」。

この2つが、ホテヘルで1年働いた先輩・ひろのさんの答えです。

1年働いて、危険な場面は一度も見なかった

数年前、デリヘルで働く女の子が殺されるという悲惨な事件がありました。私がこの仕事について考えるとき、ああいう報道はどうしても頭をよぎります。

でも実際に1年ほど働いてみると、大きなトラブルに女の子が遭って店内が騒然とする、という様子は一度も見かけませんでした。

この仕事には朝礼のようなものもないので、近隣のお店で何かあったという情報共有もありません。

もしかすると男性スタッフの間ではあったのかもしれませんが、少なくとも女の子の耳に入ることはありませんでした。

ショッキングな報道は、働いてみると「画面の中の出来事」に感じられたのが正直なところです。

私のお店はホテヘルで、提携しているような近所のホテルに移動して接客します。そこで必ず言われていたのが、携帯を肌身離さず持ち歩くこと

本番を強要されて自分で対処できないお客さんだったら、トイレに駆け込んで店に電話してくるように、と。

結論から言うと、私はその電話を一度も使いませんでした。私の勤務時間帯に他の子が使った気配もありません。男性スタッフが慌てている様子を見たことがなかったからです。

それでも「危険ゼロ」とは言えない理由

銀行やコンビニなら、ひとつの空間に複数の人がいます。この仕事は、女の子とお客さんが二人きりになる閉鎖的な空間です。

人目がないという一点だけ切り取れば、危険な場所であることは間違いありません。

そして残念ながら、部屋の扉の向こうで男性スタッフが待機してくれているわけではありません。ある程度のリスクは自分で引き受けるしかない、というのが現実です。

だからこそ、私は思うのです。トラブル時の対処法や予防策を最初に教えてくれるお店は、いいお店だと。

私のお店は、本番は本気で拒否していい、キスも嫌ならしなくていい、生理で嫌なら接客しなくていい、という方針でした。

女の子に嫌なことを強要しないお店だったから、私は安心して働けたし、そういうお店に付くお客さんも、女の子の「嫌」を理解している人ばかりでした。

ポイント

危険への備えは、実は「お店選び」でほぼ決まります。面接や体験入店の段階で、もしものときの連絡手段や対処法を向こうから説明してくれるか。

女の子の「嫌」を拒否権として認めているか。この2つがあるお店は、働きやすいお店である可能性が高いです。

殺されるまでいかなくても、嫌な客はいる

ただし、命の危険がまれだからといって、嫌な思いをしないわけではありません。

ここからは、別の先輩・ぺぺこさん(東京・高級デリヘル経験)が実際にやっていた「痛客への対処法」を紹介します。

ぺぺこさんの言う痛客とは、風俗嬢を見下し、この仕事を楽なものだと思い込んでいて、意識的か無意識かにかかわらず、女の子を嫌な気分にさせたり危険な目に遭わせたりするお客さんのこと。

悪気のない無意識の痛客のほうが、かえって対処に困るそうです。

彼女が実践していた対処は、この4つです。

1つめ、時間を勝手に削るのは5分まで。 早く終わらせたい気持ちはよぎるけれど、大幅な時短はクレームの元になり、相手を有利にしてしまいます。

だから削っても分かりにくい5分程度まで、と決めていたそうです。

2つめ、連絡先は絶対に教えない。 教えると外で会おうと迫られたり、面倒な連絡に付き合わされたりします。

断りきれないときは、自分の連絡先を教えるのではなく相手の連絡先を聞き、結局送らない。この逃げ方を使っていました。

3つめ、頭を使って自分の体を守る。 力では男性に勝てません。だから危なそうなお客さんには「攻めるほうが得意で好きなの」と言って、体を触られる展開そのものを減らしていたそうです。

4つめ、嫌なことは言葉で伝える。 痛い、嫌だと伝えたうえでなお続けるなら、非は完全に相手にあります。我慢して黙っていると、それが「了承」として扱われてしまう。

先に言葉にしておくことが、自分を有利にする防御になります。

そして悪質なお客さんだった場合、ぺぺこさんは必ずお店に報告していました。自分のためだけではなく、そのお客さんが次に指名した女の子を犠牲にしないためです。

注意

ここからはルナの補足です。実害が出たとき——本番やゴムなしを強要された、無理やり触られた、殴られた、盗撮に気づいた——は、我慢や様子見は一切いりません。

その場で中断し、すぐお店に連絡してください。 まともなお店なら出入り禁止などの対応をしてくれます。そして暴力・性行為の強要・盗撮は犯罪です。

体に被害が出たら、お店への報告と併せて警察に相談してください。「この仕事をしているから訴えられない」ということはありません。

体を壊して休んでも補償はない仕事だからこそ、初動で自分を守ってください。

引きずらないための考え方

痛客に当たった後は、誰でも気分が落ちます。次もこんな客だったらどうしよう、と考えてしまうこともあります。

ぺぺこさんはそういうとき「運が悪かった」と割り切って、できるだけ早く忘れるようにしていたそうです。

そしてもうひとつ。初回にどんなお客さんに当たるかは運でも、2回目に指名するかどうかを決めるのはお客さん側です。

いいお客さんの再指名が増えるほど、痛客に当たる割合は自然に減っていきます。

彼女が最後にたどり着いた答えは「自分に合う客層とお店を選ぶことが、いちばんの防御」でした。

まとめ:危険はまれ。でも備えは店選びから

ひろのさんの実感では、物語になるような危険な場面に遭うことは極めてまれです。

夜の世界は危険だらけだと断言する人の多くは、報道や漫画の世界をそのまま信じているだけで、実際に働いた人の言葉とは別物です。

ただし、二人きりの密室という構造上のリスクは消えません。だから、もしものときの連絡手段を用意してくれるお店、女の子の「嫌」を強要しないお店を選ぶこと。

そして痛客に当たったら、頭を使ってかわし、嫌なことは言葉にして、悪質なら必ずお店に報告すること。